高齢者介護問題2(改革・提案編)
高齢者介護制度の現状
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介護サービスには国や厚生労働省、更には県や市町村などによって法律や基準が設けられており、大枠では規定に沿った共通性があります。
しかし、その他の細かい部分については、厚生労働省・県・市町村などの指導監督に沿いながらも、各介護施設や事業所ごとの独自の裁量や方針で介護サービスが提供されており、このことが介護施設や事業所によってサービスの品質にバラツキが生じる要因となっています。
そのため、良い介護施設に巡り会えば良いサービスを受けられるが・・・・、という当たり外れが生まれてしまうことになります。これは介護サービスを受ける高齢者とその家族にとっては大変重大な問題です。
高齢者介護サービス制度の問題点
現在の介護サービス制度には、サービスを受ける高齢者とサービスを施す介護職員双方が満足できる環境にないという問題点があります。ここではそれについての具体的な例を紹介します。
例1:雇用主側が労働基準法に規定されている休憩を職員に与えなかった。
(具体例):施設に入所中の利用者(高齢者)が熱を出し、施設の看護師が病院へ付き添ったが、あいにく当日は受診者が多く、検査・診察に時間がかかった。そのためにこの間、看護師は昼食も昼の休憩時間も取れない状態であった。
病院の診察を終えて利用者と共に施設に戻った看護師に対して、施設長は「なぜこんなに帰りが遅くなったのか?」と咎(とが)めた。看護師は、受診者が多いうえに検査項目も多かったために遅くなった旨を報告して、昼の休憩を取らせてくれるように申し出たが、施設長は「一時間の残業代をつけるので、そのまま仕事を続けるように」と指示をした。結局、看護師は昼食を食べることも昼の休憩もできないまま、連続8時間の労働を強いられた。
(原因と改善案):この件は、施設長が労働基準法を熟知していなかったか、無視したかのどちらかです。看護師は利用者に付き添っていたのですから、この間は明らかに労働をしています。労働基準法では、6時間から8時間の労働の場合は45分の休憩を労働時間内に与えるように義務づけています。
もし、施設長が、利用者への付き添いの間に看護師が仕事を怠けていたと考える場合には、施設長がその事実を証明しなければなりません。
このようなトラブルは比較的多く発生しており、それが職員を退職させてしまう原因にもなっているようです。このような事が起きないようにするには、雇用側と労働者側双方に労働に関する義務と権利を啓発する必要があり、それを市がサポートするべきです。
例2:介助者(介護職員)の数が足りないために時間に追われ、行き届いたケアができずに「介護」というより「管理」になってしまっている。
(具体例): 利用者(高齢者)30~40人を介助者2人で見守りしている場合、1人は必ず排泄の介助に当たるために、見守りを行う介助者が1人になります。その時に利用者の1人に異変があると、その対応で他の数十人に目が届かなくなるために、この間に利用者がイスから勝手に立ち上がって転倒するなどの事故のリスクが高まります。
また、利用者の悩みを聞いたり、リハビリを兼ねてレクリエーションを催す余裕がなく、介助者が利用者をただ寝かせて、起こして、食べさせて、排泄の介助をするなどの管理作業のみをこなしている状態となります。
(原因と改善案):厚生労働省や介護保険法に定められた基準が現場の状況に合っていない場合や退職などによる欠員で職員の定数が足りていないのが主な原因。これらの事は介護職員の「重労働感」につながり、新たな離職が生じます。市は、この状況を回避するために「介護職員の人員確保を支援する政策」を検討する必要があります。
例3:デイサービスの利用者の中には介護度が低い人が多く、自分は健康なのに、家族から介護施設へ追いやられているという気持ちになって、介護サービスを避ける高齢者がいます。この場合、家族の誰かがその方の介護をする必要があり、家族の大きな負担となっているケースがある。
(具体例):介護サービスで行われるレクリエーションの内容は、曲に合わせてのお遊戯、風船バレー、簡単な卓上ゲーム、言葉遊びなどの簡易な内容のものが多く、高齢者のすべてが満足のいくものではない。これらの事も、高齢者が介護サービスを避ける原因にもなっている。
(原因と改善案):高齢者の中には、自分に合っていない、退屈と感じる介護サービスのレクリエーションよりも自分の趣味などを楽しみたいと思っている方も少なくありません。しかし、個人の趣味というものは、多岐にわたるために個人経営や法人経営の介護施設では、これに対応することは財政的にも設備的にも不可能です。
そのため、この問題の解決には、県や市などの財源が絶対的に必要であり、飯塚市の場合には、市が介護サービスの中核となる「高齢者のための介護付き娯楽施設」を設置し、そこで高齢者と家族が一緒に入浴や食事ができたり、介護認定を受けていない高齢者も楽しめる観劇・レクリエーション・趣味の講座などのサービスを提供することにより、高齢者の方が介護サービスを気楽に利用できる環境を整える事が必要です。
※以上のような問題は、ほんの一部の例であり、介護サービスにかかわるトラブルは他にもたくさんあります。
高齢者介護サービス制度の現在
日本では昭和の高度経済成長の頃から時代が進むにつれて、生活環境の改善や医療技術の進歩によって国民の平均寿命が延びてきました。その結果、人口における高齢者の割合が高くなり、それに比例して「高齢者を支える若い人々に対する高負担」と「高齢者への介護が長期化する」という現実が顕著になってしまいました。
その結果、高齢者の介護度が悪化していく事に比例して家族の介護負担が増していき、その介護負担をカバーするためにそれまでの仕事を離職して、時間の自由がきくパートやアルバイトなどの低収入の仕事に就いて、苦しい生活の中で親の介護を続ける人々が続出し、やがてその中から介護疲れによる介護者の自殺や介護を受ける親との無理心中などの悲劇が生じることとなりました。
現在の高齢者介護制度は、まさにこれらの悲劇を生まないため、即ち「高齢者の介護を行っている人々の救済」のためというのが原点となっているのです。そのため、介護サービスを受ける側の高齢者の満足度は二の次とされており、その結果、介護サービスを受けるべき高齢者が、現行の介護サービスの内容に満足できずに介護サービスを避けるまたは拒否する事案が生じています。
特にこの傾向は、介護度が軽く、通所サービス(デイサービス)などを利用する高齢者に多く、「自分はまだまだ元気だ!自分の家で好きなように過ごしたい」という思いと、言葉遊びや簡単なゲームなどしかないサービスへの不満がこれらの原因となっています。
たとえ高齢者の介護度が軽くても、高齢者介護サービスを受けずに家で過ごすようになれば、その高齢者の家族はその対応のために何らかの負担を強いられることになります。しかし、かといって嫌がる高齢者にデイサービスなどの介護サービスを無理強いするわけにもいかず、高齢者を持つ家族は、高齢者に満足のいく介護サービスを行えない現行の介護制度と介護施設、そして介護サービスを拒否する高齢者との板挟みとなって悩み苦しむことになります。
要するに高齢者介護における家族の介護負担は、介護度が重いのに受け入れてくれる介護施設が無い場合と、介護が必要な高齢者を受け入れてくれる介護サービスの施設はあっても、その介護サービスを高齢者が受けようとしない場合に大きくなるということです。
また、現在の介護サービスは国(厚生労働省)や県や市などの法律や条例・規則、そして監督や指導などによって管理や報告などの運営や各種の介護サービス内容等については大筋の枠組みが決められています。
しかし、それらの大筋の枠組み以外の細かい部分に関しては、各事業所や各施設の裁量に任せられているのが現状です。そのために、介護士や職員の教育などにバラツキが生じ、良い事業所や施設に当たれば質の良い介護サービスを受けられるが、そうでなければ・・・・という状態が飯塚市でも実際に起きています。
このような『介護サービスを受けるべき高齢者が介護サービスを避けてしまう』、『事業所や施設から提供される介護サービスの質にバラツキがある』という二つの問題は今後の重要な改善のテーマです。
【ご注意】
※上の図は、現在の介護サービスを分かりやすく簡略化したものですので、必ずしも正確・詳細ではありません。より詳しい介護サービスをお知りになりたい場合には、市役所の高齢介護課などへお問い合わせください。
※本来、地域密着型サービスは介護保険サービスの中に含まれていますが、理解しやすくするために指定・認可の自治体に分けて表記しています。
※居宅サービス・通所サービス・施設サービスなどの専門用語は、一般の方でも理解しやすいように居宅介護サービス・通所介護サービス・入所介護サービスなどに置き換えて表記しています。
高齢者介護サービス制度についての改革案
上の図の『現在の介護サービス』にあるように、介護が必要な高齢者の中には、通所や入所の介護サービスに行かせられるのは、家族から施設へ追いやられるような寂しい気持ちになり、介護サービスを利用することを嫌がる方がいます。また、自分の家で時間を過ごしたいために、通所や入所による介護サービスを嫌う方もいます。 これらの理由から、親の介護のために息子や娘が仕事を辞めて、パートやアルバイトなどで少ない収入しか得られないなどの苦しい生活をしいられるという状況におちいり、それが無理心中や介護疲れによる自殺などの不幸な事件につながったこともあります。
この解決のために下の図のように現在の介護サービスの体制に加えて介護の中核施設(高齢者のための介護付き娯楽施設)を設け、高齢者の要求に応じた幅広い介護・老後サービスを提供して介護が必要な高齢者に積極的に介護サービスを利用してもらう環境を構成するべきです。
※下の図につきましては、『高齢者介護サービス制度の現在』の図の【ご注意】と同様です。
上の図にある「介護の中核施設」に以下の各施設等を設置します。
①介護士・看護師や介護施設を経営している管理者等を教育・啓発する施設
②介護の事業所や施設並びに介護サービス全体を監督・支援・評価表彰する機関
③介護サービスの基準モデルとなる介護施設や病院等
④介護認定されていない高齢者やその家族も一緒に利用できる下記の施設及びコーナー
・娯楽施設〔劇・音楽鑑賞・娯楽ショー・ペットとの触れ合いなどが楽しめる〕
・情報啓発施設〔図書館・介護相談窓口(高齢者やその家族、介護職員が対象)など〕
・趣味講座〔絵画・将棋囲碁・インターネット・パソコン・カラオケなど〕
・食堂、入浴場、理髪店や美容院、買い物などの施設
・ストレッチ(運動)施設やリハビリ(機能回復)施設
上記の施設設置の目的
①の教育・啓発施設については、介護士などの職員や経営者等を共通のマニュアルなどで教育や啓発することによって介護サービスの質のバラツキを無くし、これを一定レベルに維持すると共に職員等の労働環境の改善と経営者の意識向上を実現するためのものです。
②の監督・支援・評価表彰機関については、まず介護サービスについての評価基準を設けて各施設を評価し、各施設が自分の介護サービスレベルが他の施設と比べてどの位置にあるかを明確に自覚してもらう。
そして評価結果から明確になった問題点を職員と経営者で改善してもらい、介護サービスの向上を実現していき、質の高い介護サービスレベルにある施設や改善度の著しい施設に対しては、これを表彰し、その内容を一般に公開する。
③の介護サービスの基準となる介護施設や病院については、先進的な施設及び高品質の介護サービスを実現するための試験的な介護施設及び病院であり、市内の各介護施設等が将来的に進むべき方向性を示す施設。また、介護士や職員の教育や研修の実習施設としても使用される。
④の各施設及びコーナーについては、介護認定を受けている高齢者とその家族及び65歳以上の介護認定を受けていない高齢者とその家族が、これらの施設やコーナーを利用することによって、介護サービスを身近に、そして楽しいものであると感じてもらい、介護サービスの利用を促進させるための施設。
また、高齢者がこの施設内で娯楽・趣味・運動などを楽しみ、更に食堂や入浴場、理髪店や美容院、そしてスーパー等の買い物施設を利用することによって、高齢者家族の介護負担を軽減し、高齢者自身の生活の充実と利便性を向上させる。
今後の課題
上記のような「介護の中核施設」を設置・運営するには、市・県・国などの公的な財源が必要となります。しかし、現在の状況ではまだまだ国や県からの財政的な支援は望めない状況です。たとえそのような厳しい状況でも、市が独自でこの改革を行っていかないと高齢者介護サービスの制度自体が破綻してしまう可能性があります。
その理由としては、介護施設の人手不足が慢性化しているために介護サービスを行う施設があっても、その施設で働く介護士などの職員が不足して、十分な介護サービスが提供できない。または介護が必要な高齢者を受け入れることができないなどの事象が起きつつあることです。
この原因としては、介護職は体が不自由な高齢者が相手のために体力を使う機会が多く、非常にハードな仕事であるとのイメージが定着している。
また、最近のマスコミによる報道では、介護職員による高齢者への虐待などがニュースになるなど、介護職に対するイメージが悪化しているために、求人をしても人が集まらない。
更に、賃金などを含めて介護職の労働環境が良好とは言えない状況にある上に、上の二つの理由から人手不足が常態化しており、そのしわ寄せを現職の職員が負担するために重労働感が増し、それが更なる退職者を生んでしまうという『負のスパイラル』に陥っているという現状にあるからです。
私達は、この高齢者介護サービスの危機から抜け出して、高齢者の誰もが楽しい老後生活を送れるようにするためにも、「介護の中核施設」を実現する必要があります。